【完】山崎さんちのすすむくん
「あ! えと、書簡を守護職邸にと言われて。それで山崎さんと一緒にって副長が」
京に来て間もない彼は当然地理を知らない。
巡察で町を歩く隊士らとは違い、側付きの小姓であると尚更出歩く機会も少ない。
副長がそう仰るなら道すがら町を案内しろと言うことなのだろう。
日はもうすぐ天頂を指す頃合い。
口ではどんくさいだの餓鬼だの言いつつも、素直で真面目なこの少年を、副長も意外に可愛がっていることを、俺は知っている。
「では、そこらで昼でも食べてから行きましょうか」
「え!? 良いんですか?」
「その代わりしっかりと道は覚えてくださいよ?」
「はいっ!」
鼻の付け根を押さえつつも無邪気に破顔する彼は、やはり此処にはそぐわない。
曇りのない眼は、不思議と知るはずもない昔の沖田くんを彷彿させた。
……もしかしたら、小姓にしたんはその所為かもしれへんな。
真っ直ぐやからこそ目的の為やったら穢れを厭わへん。
あん人のことや、んなこともうさせとうないんやろな。
今の沖田くんを見てたら……尚更や。
「山崎……さん?」
その澄んだ双眸の向こうに違う面影を見ていれば、流石の市村くんもきょとんと首を傾げる。
あかんあかん、つい。
「いえ、何も。副長に確認してきますから此処で大人しくしておいてくださいね」
誤魔化すようにその前髪をくしゃりと混ぜてにこりと笑うと、俺は一人立ち上がった。