【完】山崎さんちのすすむくん

僅かに声を大きくして興奮気味に話すそいつに、良くも悪くも今の俺達の影響力の大きさを感じる。


この子のような人間もいる反面、そうでない奴等もそれ以上にいるのだろう。


気が付けば、それだけのものに、俺達はなっていた。



「戦って強くなって、とろくさいって俺を笑った連中を見返してやるんです!」


聞いた話によれば、市村くんの父は昔藩を追われた身だと言う。


お世辞にも敏捷(ビンショウ)とは言い難い彼の普段の様子を見ていると、此処に来るまで色々とあったのかもしれないが。



「それでいつか副長に認めて貰えるような」

「人斬りになるのですか?」



甘いな。



あえて言葉を被せれば、その足がピタリと止まる。


「見返したい、その思いはわかります。でもそれだけで貴方は人が斬れますか? 名も知らない人間の命を奪うことが」


数歩後ろに立つ彼は瞬きもせずに固まって。


具体的な想像まではあまりしてこなかったということが容易に想像出来た。


甘い、世の中そない簡単には出来てへんで。


道場で強いんと、うちで強いんはまた別の話や。


「勿論、うちは人斬りばかりです、中にはそんな人もいるでしょう。けれどそう、なりたいですか?」


入ってもうたからにはちゃんと知っとかなあかん。


もう此処は憧れの場所なんかやない、己の居場所や。


その上でどうなりたいか、決めるんは自分や。
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