【完】山崎さんちのすすむくん
「でも、じゃあ」
漸く目が合った市村くんは、眉間を寄せて震えた声を発した。
描いていたものが崩れたのだろう、俺を見るその目は迷い子のように頼りない。
「……人には分(ブン)というものがあります。何も必要なのは剣客だけじゃありません、副長を支えるのも大切な仕事です。私だって、人を斬ったことなどありませんよ」
それが俺の分。
あのお方は俺にそれをさせへんかった。
そりゃ危ない時は最悪相手を殺してでも戻るようにと言われてはいるが、今のところそんな局面もない。
無論、その裏で汚れ役を任されている者もいる。
其々が存在するからこそ組織が成り立つのだ。
個なくしてそれは有り得ない。
「まぁ、まだ入って間もないですし折角あの方の傍にいるのです。よく見て、よく考えてみなさい」
自分の分を。
市村くんはまだ若い。若いからこそどうとでも出来る。どうとでもなれる。
自分達のような人間がこれからの国を作るのだ。
広い目を、持って欲しい。
……なんて。
あかん、俺すっかりおとんやん。
拳を握り、難しい顔でじっと地面を見つめる様子から何かを考えてはいるのだろうが。
俺ごときがちと厳しぃ言い過ぎたかなぁ……。
「すみません、出過ぎま」
「すみません!」