【完】山崎さんちのすすむくん
……え、と?
そんな俺の声を遮り、腰を折ったのは市村くんで。
何故彼が謝るのかがよくわからず、思わず言葉を失う。
「俺、何で小姓なんだろってずっと思ってたんです。折角入隊出来たのにって。でも、そうですよね、今の俺じゃ何の役にも立ちませんもんね」
だがその呟きにすぐ合点がいった。
まぁ、そらそやろな。うちくるような人間は誰も小姓したいやとか思とらんやろし。
けれどへへへと頭を掻く彼にはもうそんな不満も、神妙さも見えない。
「でもやっぱり俺今の仕事頑張ります! 頑張って、いつか山崎さんになってみせますから!」
体の前で拳を握り、鼻息荒く宣言されたのは何やら少々可笑しな決意。
……俺になれるか阿呆め。
大事なところでやはり抜けているそいつに、それでも自然と頬が緩んでしまう。
「私みたいに、なるんでしょう?」
「あ」
ぽんと頭を撫でると、漸く間違いに気づいたらしい市村くんも照れた笑いを浮かべた。
「ほら、早く食べてさっさと行きますよ」
嬉しいのにむず痒い。
そんな気持ちを悟られぬようにとさらりと話を変えて歩き出せば、慌てた足音が付いてくる。
林五郎や沖田くんとはまた違う、初めて俺みたいになりたいと言ってくれた少年が。
……もしかしたら、おとんもこんな感じやったんかもしれへんなぁ。
最後に生家に顔を出したあの時、屋根裏えと消えた父の胸中を想像すると、久し振りに穏やかに笑えた。