【完】山崎さんちのすすむくん
日に日に風が冷たくなっていくのを肌で感じる季節。
その日も、時折薄ぼんやりとした空から雪が舞っていた。
「あ、山崎さん、これっ、わ!」
「あ」
流石にたった数日では大きな成長を見せる筈もなく、乾いた廊下の上を歩く市村くんは相も変わらずよく転ぶ。
まぁ手を前に出せるようになったことが唯一の成長だ。
「大丈夫ですか?」
「はい! で、これなんですけど副長が山崎さんに頼めと」
そして慣れているのか実は結構打たれ強い。
何でもなかったようにすっくと立ち上がった彼が差し出した紙を眺めて、俺も何でもなかったように溜め息をつく。
「またですか……」
副長から勘定方へのお達し。
書いてあるのは謎の金額のみ。こういう場合は大抵局長絡みと決まっている。
もー何でまた俺挟もうとするかなぁ……こんなん経費で落とせとか言うたら俺そろそろほんまに算盤(ソロバン)投げられる気ぃするわ。
……あ、俺やったら避けられるからか……?
「た、大変ですよね」
「まぁ……仕方ないです。ちょっと行ってきま」
行き当たった推論に苦笑いして、同じく引きつった笑みで俺を見る市村くんに視線を戻した直後。
その向こうに捉えたものに、すっと全身の熱が奪われたような気がした。
……ああ、そか。