【完】山崎さんちのすすむくん
「移るならもうとっくに移ってますよ」
どんなけ側で面倒みてきた思てんねん。
強引に引き寄せたその頭を胸に押し付け、幼子をあやすようにトントンとその背を叩く。
「ちょ! 山崎さ」
「はいはい、どうどう」
初めはもがいていた沖田くんだが、すっかり落ちた今の体力では俺を振り払うことすら出来ないようで。
なすがままに大人しくなったのを確認すると、俺も腕の力を緩めた。
「……だから、貴方も少しくらい甘えてください」
こんなになってもまだ意地張って付いてきて。
そのクセ周り気にして気ぃ張って。
そろそろ、自分を甘やかしてやったかてええんちゃうか。
これ以上無理しても寿命縮めるだけやろ。
すまんけどな、俺ももう、そんな自分見てんの辛いねん。
やっぱし俺は、もうこれ以上目の前で弱ってく人間ほっとけん──
考えても考えても、今の心で思うのはやはりそんなことだった。
少しの間を置いて。
「……わかって、ますよ」
俯き加減の沖田くんから絞り出すような声が聴こえたかと思うと、直後腹の辺りで着物がぐっと引かれた。
「これ以上此所に居続けてももう戦えないどころか、ただの足手まといにしかならない」
震えているのはその心。
受け入れ難い現実を受け入れた苦しみだ。
『違う』などと気休めにもならない軽い言葉は言えない。
「……わかって……るんです」
ぱたぱたと何かが固い布団に落ちる音に再び腕に力を籠める。
伝わりくる魂の慟哭に、今はただその震えが止まればと、微かなむせびを聞きながら俺はそっと目を伏せた。