【完】山崎さんちのすすむくん
湿った温もりを受け止めていると思い出されるのは昔のこと。
他愛もないことで泣いていた小さな従兄弟達の記憶。
年が離れていたからこそ可愛くて仕方なかったあの二人。
それは今でも変わらない。
林……。
「……お父さんって、こんな感じ、でしょうか」
「……せめて兄にしてくれません?」
流石に自分はでか過ぎやろ。ちゅうか皆似たよなこと言い過ぎやねん。
じわりと染み出した思い出に意識が持っていかれそうになったところで、漸く落ち着いたらしい沖田くんに胸を押される。
「だって、土方さんはこんなに優しくないですもん」
「基準はそこか」
悪戯っこのように舌を出す彼に俺もまた笑みを返す。
いつものように。
彼が望むその想いは理解しているつもりだから。
「……湯を、持ってきましょう。早く着替えてとっとと休んでください」
桶を持ち部屋に戻ると、沖田くんは既に着替えを済ませていた。
汚れた長着と手拭いを受け取って、皮膚に付いたままの乾いた血液を濡らした手拭いで拭きあげる。
「やはりお母さんでしょうか」
「医者です」
その間も幾つかの他愛ない言葉を交わした。
あとどれくらいあるのかわからない、この穏やかな刻を惜しむように。
そして、部屋をあとにしようと障子に手を伸ばしたところで。
「そういえば、何か用があったのでは?」
やっと此所に来た理由を思い出した。
「もう、済みました」
振り向いた先にいるその人は、既に目を閉じ布団に横たわっている。
それでもふわりと上げられた口許と穏やかに聞こえた声に、その答えがストンと落ちてきて。
「……おやすみなさい」
俺はそのまま障子を滑らせた。