【完】山崎さんちのすすむくん
その日の夕刻だった。
……、馬?
珍しく門の辺りが騒がしい。
興奮している馬の嘶(イナナ)きが聞こえ、何やら慌てた叫び声も飛び交っている。
当然それから漂ってくるのはピリピリとした不穏な空気。
確か今日は……。
外へ出た人物を思い浮かべて自然と門へと足を向けた時、その方向から市村くんが慌ただしく廊下を駆けてきて。
血相を変えたその様子に、朧気だった嫌な予想はくっきりとした輪郭を持ってしまった。
「やっ、山崎さん! 早く来てください!局長が……っ!」
銃創、だった。
二条城での軍義に参加した帰りを狙われたらしい。
共にいた島田らの話によると、どうやら襲ってきたのは御陵衛士の残党で、その中には篠原の姿もあったという。
恨んでいるだろうとは思っていたが、まさかまたも局長を狙ってくるとは。
まぁ再び姿をくらました篠原達のことは置いといて、だ。
馬上で右肩を撃たれた局長は、流石の精神力で落馬することなく何とか此処まで戻られた。
だが弾が抜けた様子はなく、未だその体に鉛弾が入ったまま。
俺も然り、近隣の町医ではその厚みのある逞しい筋肉の奥に埋め込まれた弾を取り出すことは出来ず。
仕方なく傷口が締まる前に、慶喜公の元にいる松本先生の治療を受ける為、大坂に下ることとなった。
これに、沖田くんも自ら名乗りを上げた。
名目上は護衛。
勿論、そうでないのは誰の目にも明らかだ。
が、いつまでも隊士として扱う副長のそのお心に、水を差す者は誰一人としていなかった。