【完】山崎さんちのすすむくん



どんな時でも年は明ける。


しかしながら目出度い空気など今の京には欠片もない。


此所同様、京の至る所で武装した藩兵とおぼしき姿が見られる。


まさに一触即発といったところなのだろう。


冷たい風が吹き荒ぶ通りからは童達の姿が消えて、砂埃がいやに寂しく渦を巻いている。


童だけじゃない。


辺りを歩く人々はまばらで、此所は本当に京なのかという疑問すら湧く。



「あー! 山崎さんっ!」



そんな中、相変わらず元気な市村くんの僅かに高い声は、唯一この建物内を明るくしていた。


近付いてくる足音は軽やかで、最近は転けることも格段に減った。


それも、子の成長を見ているようで中々嬉しい。



「はい?」

「与力(奉行所に勤める町役人の一つ)の方から干菓子貰ったんです! 一つどうぞ!」


寒さに乾いた頬を染め、差し出されたのは白くて丸い小さな干菓子。


その屈託のない笑みにつられて笑えるのは、きっと誰しも同じなのだろう。


皆もこの明るさが可愛いんやろなぁ。



「でも貴方が貰ったんでしょう? なら」

「良いんです、一緒に食べた方が楽しいじゃないですか」


……ひねてへんってええなぁ。


だからどうぞ、と満面の笑みで言われれば、もう頷くしかない。



「どう──」


も。



ざらりとした感触を掌に感じたまさにその時。


俺の声を浚っていったのは、遠くに聞こえた一発の乾いた銃声だった。



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