【完】山崎さんちのすすむくん
翌日、戦況は更に悪化した。
実質的な分の悪さもさることながら、俺達に一番の衝撃を与えたのは──
「……嘘やろ……錦旗(キンキ)?」
戦いの最中に薩摩の連中が掲げた赤地の御旗。
天子様の御旗。
それは朝敵討伐の命を賜ったという官軍の証。
馬上から見たその赤は、地味な色で覆われたこの戦場であまりに大きな存在感を放っていた。
ちゅうことは俺らが……朝敵。
幕臣として将軍の為にと戦っていた俺達は、今この時を以て天子様の『敵』だと宣告されたのだ。
違えようのないその事実が大きく俺の──俺達の心を揺らした。
どよめきが波のように拡がる。
くるりと反転した立場に動揺する俺達とは逆に、薩摩の兵達の士気は更に高まった。
「……っ」
頬を掠めた銃弾のちりちりとした熱い痛み。
加えて直後に現れた土佐の旗に漸く止まっていた頭が動き出すと、俺は直ぐ様副長の待つ本陣へと馬を飛ばした。
だがしかし、錦旗に戦意を喪失してしまった連中も少なくないなかで巻き返すことなど到底敵わず。
「ーーっ、退け!」
会津の兵達が踵を返したのを合図に、俺達もまたそのあとを追うしかなかった。