【完】山崎さんちのすすむくん


日が落ち、辺りを闇が覆うと、昼間の戦闘が嘘のように静寂が訪れる。


出来ることは全てやった今、所々から聞こえる呻き声にはもう何もしてやれない。


凍てつく空気が全ての熱を奪っていったのか、心も身体も、酷く冷たい。


青白い月明かりが、辺りの赤を見えなくする。


木々の隙間から覗く星空だけがとても、美しかった。



……何が、したいんやったっけ。


身体は疲れている筈なのに、胸が騒いで眠れない。


大きな戦闘が始まって二日。


当然のことながら次々に人が死んでゆく。


目にした死体の中にはどう見ても兵には見えない人間の姿もあった。未だ隠れるように建物に潜む姿もあった。


あの怯える眼は俺達をも映していて。


巻き込んだのは……俺達。


行き当たったその事実に思わず口許を覆った。


ちゃう……ちゃうんや、俺はこんなん望んでへんかった……っ!


言い訳だとわかっていても思わず浮かぶその言葉。


俺が忠誠を誓ったのは副長であり幕府ではない。


けれどあの錦旗は流石に堪えた。


上方に暮らす人間にとって天子様とは身近に存在する尊きお方だ。


幕府の上に立っていた筈のそのお方から敵だと言われ、守りたいと願った町を戦火に巻き込んで。


俺は、この先どこまでそれに耐えられるんだろうか。


尽くすと誓ったあのお方は無論今も大切な我が主。副長の為に俺は今も此処にいる。


けれど真に心が願うのは何かと問われれば、今の俺には答えることが出来なかった。




さわさわ さわさわ



風に擦れる木の葉の音色が耳に心地良い。


今はもう何も見たくなくて。


目を瞑り自問自答を繰り返しているうちに、ふと過ったのはあいつの最後の言葉、だった。










「……夕美」
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