【完】山崎さんちのすすむくん
何を言われたのかわからないくらいに、その口から出た言葉は意外だった。


「……今なんと」

「命令だ、お前は残れ」


繰り返された言葉は間違いなく今聞いたものと同じものだ。


なっ……。


「何故!?」

「怪我人は邪魔だからな、残りてぇ奴は置いていく。手当てしてやれ。おめぇなら地理にも詳しい、その気になったらついてこい」


その気になったら──


それが、このお方の言わんとする全てなのだ。


そう理解した途端、ドクンと心の臓が波打って、握り締めた掌が俄に湿り気を帯びる。


自らも何度も考えたことなのに、改めて言われるとこんなにも重たい。


俺は……っ。


このまま頷いていいのかわからず無言で立ち尽くす俺の横を、副長が通り過ぎていく。


「ふ」

「お前はしたいようにすればいい。……ここまで巻き込んじまってすまなかったな」


だが背で語られたのはまたも思いもよらぬ言葉で。


全てを悟った気がした。


副長は気付いていたのだ、俺が迷っていることを。それはきっと副長をも悩ませ──


俺に、選択肢を与えて下さったのだ。


命令にすることで、どちらを選んでも俺の荷が軽くなるようにと。




「……申し訳、ありません。有り難うございますっ」


震える唇をきゅっと引き結び、俺は勢いよく頭を下げた。


「さっさと行け、馬鹿」



ひらひらと手を振るその顔は拝むことは出来なかったけれど。
確かに副長は笑っていたと……思う。



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