【完】山崎さんちのすすむくん

視界の隅に捉えたのは草の陰に隠れるようにしながらも、うずくまって動かない小さな影。


逃げる途中だったのか何なのか、その前に横たわるのはきっとその親で。


つ、と眉が寄った。


何があったかなんて聞くまでもない。こんなこと、さして珍しくもなかった。


だがいつにも増して複雑な思いが湧くのは、きっと俺もまたその争い事に参加した内の一人だからだ。



……。


拳を握りつつも、その童の元へ行こうと足先に力を籠める。


だが直後、微かに耳に飛び込んできたのは異質な音で。


それを辿り視線を滑らせた瞬間、ざわりと毛が逆立つ感覚に俺は目を瞠った。


童に向けて銃を構え、にやりと厭らしく顔を歪ませた醜い男。


錦の御旗はもう去った筈なのに何故兵が此処にいるのか。そんなことを考える暇はなかった。


ただその醜悪な面に、ふと一人の男が重なって見えた。


琴尾を殺した、あの男が。


くっきりと脳裏に浮かび上がった忌まわしい記憶に、身体中の血がふつりと沸いて。


俺は無意識に土を蹴っていた。






「糞があぁっ!!」


















「……ひっ!?」



どさりと重たい音をたてて、男が腰をつく。


銃を落としたその手に生えているのは二本の飛び苦無。



「次は頭や。死にとうなかったら今すぐ去ねや」


突如現れた俺に間抜けな顔で目を向けてきたそいつを威嚇するように睨み付け、苦無を構えて低く呟く。


「ひぃっ」


カサカサと草の向こうに消えていくその背中を暫く見送って。


完全に気配が遠ざかったのを確認すると、僅かに向きを変えて後ろを振り返った。
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