【完】山崎さんちのすすむくん
「っ」
そこではやはり未だ状況を飲み込めていない怯えた双眸がこっちを見つめていた。
この子からすれば俺もまた突然現れた恐怖の対象なのだろう。
その気持ちは理解も出来るし、今重要なのはそこじゃない。
目だけを動かして隣を見れば、横たわるのは母親らしき女性の体。生きていないのはすぐにわかった。
だが童自身には大した怪我もないようで。それを確認して、やっと少しだけ安心出来た。
「……酷やけどな、自分も早よ逃げた方がええ。さっきみたいな阿呆がまだ残っとるかもしれんしな」
極力穏やかに声を発して、俺もまた親子に背を向ける。
年端もいかぬ童一人置いていくのは心苦しかったが、今回ばかりは仕方なかった。
足元をみつめながらゆっくりと進み、十分に距離をとったところでスルリと気が抜ける。
途端に立つ気力もなくなって。
崩れ落ちるようにして乾いた土に膝をついた。
「……あー……腹立つ」
何してくれとんねんあの阿呆。
その弾みで胸を押さえた掌に生暖かいものが溢れ、けほ、と咳が漏れた。
奴の銃から放たれた弾はしっかりと俺の右胸を捕らえていた。
それなりの覚悟はしていたものの、やはり痛いものは痛い。
こんな姿は、あの童には絶対に見せられなかった。
その思いだけで此処まで来た今、もう体を起こしているのさえ辛くて。ごろりと力なく横になるとそのまま静かに天を仰ぐ。
視界を覆うのは仄かに白んだ果てしない青。
あまりに高くて冷えた青、だった。