【完】山崎さんちのすすむくん

息をする度に体内から妙な音が聞こえる。
というか息をするのもかなり、辛い。


あの阿呆やっぱ殺っとくべきやったか。


密かに軽口を叩きながらも零れる咳に激しく痛む胸を押さえる。


持ち上げた手は毒々しい程鮮やかな赤に染まっていた。


……肺、やられたな。俺も此処までかぁ。


死期というのは自ずと悟ると聞くが、それをすんなりと受け入れられることが出来たのはきっと、思うままに動けた今だから。


恐怖はない。ただ、


追いかけよー思ててんけどなぁ。


唯一それだけが少しばかり残念だった。



湿った咳。反射的に口許を覆った袖を赤が濡らす。


これは、確かに辛いなぁ沖田くん。


近くにいたからこそ思い浮かぶのに、何故か一緒にしないでくださいと、拗ねた声が聞こえた気がして。


俺は微かに頬を緩ませ瞼を閉じた。



副長……付いて来ぇへんのかいて突っ込むやろか。
市村くんはもう平気やな。
島田は殺しても死なへんし。
林五郎は……心配やなぁ。


風が草を揺らす音を側に聞きながら、次々に浮かんでは消えていく顔に思いを馳せる。


記憶を一つ、また一つと振り返る。


それら全てが俺の生きた軌跡。


手繰り寄せる間もなく浮かんだ笑顔にも、もう心は痛まなかった。



やっぱし自分は帰って正解や、夕美。
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