【完】山崎さんちのすすむくん
今頃元気に元の暮らしに戻っとるんやろうな。
ありありと浮かぶあの笑みに、溢れる言葉をただ滔々と吐き出す。
自分がおって、自分がおらんくなったから、今の俺があるんやと思う。俺はやりたいよう出来たで。
まぁ前向きかどうかは怪しいとこやけどな。
くすりと零れた苦笑はゆるゆると穏やかに変化した。
ほんで……出来たら。
こっちのことは忘れて、
そっちで幸せになってほしい。
心からそう思えたから。
やっぱしあれやわ、ほんま、そう思うねん。
自分には未来がある。
続いてく刻がある。
俺みたいなんさっさ忘れて、早よええ人見つけぇな。
きっとお前もそう思とったんやろ?
せやなかったら、んな顔せぇへんもんな。
なぁ、琴尾。
土の匂いに混じって漂う甘い香りを忘れる筈なんてない。
これは、琴尾が好んで身につけていた匂袋のものだ。
柔らかな笑みが隣にある。
その手が俺に触れると、不思議と痛みも苦しさも消えた。
痛みが見せた死ぬ間際の幻でもいい。
ただの夢でもいい。
その綺麗に結われた艶やかな髪に差された櫛を見て、俺はこれまでの全てをただ息をするように、するりと理解した。
……まぁ、後でまたじっくり話聞かせてぇや。
「っ、お兄!?」
今は阿呆な弟が来てもうたさかいに。