【完】山崎さんちのすすむくん
動き始めた刻
湿り気を孕んだ風が深緑の京を通りを抜ける。
多くの人や車が行き交う橋の上でも、生温い一陣の風が一人の少女の手から薄い紙を浚っていった。
「あ!」
ひらりと橋を飛び出たそれに、少女は必死に手を伸ばす。
川の上へと大きくはみ出た体は簡単にそのバランスを失い、ぐらりと傾いた。
それを見ていた人間なら思わず声を漏らすような光景。
だが、
「あほっ!!」
響いた声の主が、その結末を覆した。
「自分相変わらずどんくさいやっちゃな! もーちょいで落ちてまうとこやったで!?」
まだ状況が飲み込めず、大きな目を更に丸く見開く少女の前で早口で捲し立てるのは、同じような年頃の少年。
「……つ、つとむちゃん……?」
「もーお兄、んないきなり怒鳴らんでもええやん、ビビってはるって」
その隣にはまだ幼さを残しながらも彼とよく似た、頭一つ分背が低い少年の姿があった。
「あ、初めまして凛ですー。自分が夕美ちゃんやろ? いっぺん会ってみたかってん、ほらお兄がよお夕美夕美五月蝿いから」
「ちょ、いらんこと言わんでええねんこのあほ!」