【完】山崎さんちのすすむくん
「っくぅ!! 何さらすっ!」
後頭部を押さえ、跳ね起きる。
いったいやんけっ!!
ごっちんいったで!? ほんま畳の音かあれ!? お星さまきらっきらしたわ! 美しかったわ!
くっ、まさかこいつに一発食らうとは……! 俺としたことが気ぃ抜き過ぎたぁ!
てか何や! 今そんな流れやったか!? 俺んなぶっ飛ばされるあれやったか!?
「……て、何や?」
そのあわあわ感はなんやねん。
「なっ、何やじゃないですよっ! 烝さんが突然……ぎゅってするからっ」
「それの何があかんねん。泣いとる子を泣き止ますんはこうすんのがいっちゃんええやろ。お前さんも止まったやないかい」
「へ? ……あ」
まるで気がついていなかったのか、夕美は確かめるようにそろりと頬に触れる。
そんなそいつを眺めながら俺は溜め息をついて、居住まいを正した。
「兎も角、俺のことは気にせんでええ。もう半年以上も前のことや。今は尊敬出来る人んとこで働かしてもろてるし、それなりにやっとる。お前さんが気に病むことはあらへん」
にこり笑って跪座(キザ.膝と爪先で正座するような座り方)する。
「明日は朝一で此処を出る。そろそろ寝よか。夜更かしはお肌に悪いで」
わしわしと夕美の髪を混ぜ、そのまま膝行で後ろに下がろうと畳に手をついた時。
不意に冷たい小さな手が頬に触れ、俺ははっと視線を上げた。
「……無理して笑わなくてもいいと……思います」
その先にあったのは、固く結んだ唇。
必死で涙を堪える瞳だった。
……こいつは、真っ直ぐやな。
無理すんなって、琴尾にもよぅ言われとったっけ。
久しぶりに目の奥に感じる熱を堪え、俺は頼りなく笑った。
「こんなやり方しか、俺は知らんのや。……おおきにな」
目の前にある、今にも溢れそうな水滴が揺れる。
それを袖で拭って、頬を包む氷のような手を取った。
「これ以上冷えてまう前に寝ぇ。流石に手ぇ繋いで寝るっちゅう訳にはいかんしな」
「っ、……はい」
「ん、おやすみ」
お前さんは俺の代わりに泣いてくれた。
今の俺には、それで十分や。