【完】山崎さんちのすすむくん
輝く朝日が戸を黄金色に縁取る頃、ゆらゆらと意識が浮かび上がってくる。
この時期は布団から出るのが酷く名残惜しい。
かいまきからはみ出た顔だけが恐ろしく冷たくて、俺は目覚めも兼ねて温かな両手で顔を覆った。
「ぅ……はぁ」
そのままパチリと頬を叩いてゆっくりと起き上がる。
僅かに乱れた襦袢と長着を直し、横に置いていた袷を重ね綿入りを羽織り、少しだけ伸ばしてある後ろ髪を黒の結い紐で纏める。
そこでようやっと夕美を起こすのだ。
ほっとけばいつまでも寝てそうなそいつを。
欠伸をしながら壁にくっついた塊に四つん這いで近寄る。
因みにこれは左にしか転がらないらしい。
器用なやっちゃ。
そう心で呟いて、俺は手を伸ばした。
「夕美、起きや、朝やで」
「……ぅ」
「ほらほら早よぅ」
「……う゛……ぁい」
うつ伏せだったその塊がもぞりと頭をもたげる。
ごしごしと目を擦るそれがこっちを向いて、
「……ぶっ、ちょっ! 何やその顔っ」
「へぇ?」
俺は思わず吹き出した。
「……スミマセン」
えらい人相変わったな……目ぇいつもの半分もないんとちゃうか?
「ま、あんなけ泣いたらそうなるわ。んな顔で現れたら向こうさんもびっくりしやる。まぁゆっくりしとき、最後くらい俺が作ったろ」
泣かせたんは俺やしな。
腫れた瞼を冷やそうと濡れた手拭いを乗せ、よっこいせと立ち上がる。
「そこで音だけでも聞いとき。俺くらいちゃっちゃ出来たら合格や」
ちゅうても作るんは味噌汁くらいやけど。
ま、頑張っちゃいますかぁ。