【完】山崎さんちのすすむくん
「烝さんって、何でも出来ますよねーなんか昔の男の人って家事とかしないイメー……印象? なんですけど」
ふうふうと冷ましながら味噌汁を啜ると、夕美が感心したように呟く。
その瞼はいつものそれに戻っていた。
「普通はせんで、独り身連中は基本外で食いやるわ。俺はまぁ……よう手伝っとったしな」
と言うより、大抵のことに対応出来るようおとんに色々叩っ込まれたからやねんけど。
まぁその辺はほいほい喋れんしな。
「へぇー! 何か素敵な旦な、男性」
仄かな酸味の千枚漬をかじっていれば、夕美は言いかけた言葉をはっとした様子で言い換えた。
そんなそいつの額を、こつりと小突く。
「せやから気にしな」
あからさま過ぎんねん。
あんま気ぃ遣われるんは好きやないしな。
「そこは素直に言うべきやろ、『きゃーなんて素敵で優しいおっとこ前な旦那様なのっ』てな」
そんな思いを込めて、にやりと笑う。
「……、きゃー」
「……おい、そこで止まんな。ただの悲鳴やないかい」
突っ込むか呆けるかどっちかにせぇ。
じろりと睨む俺に、ぽかんと目を丸くしたままだった夕美がふわり顔を綻ばせた。
「あはっ、素敵で優しいおっとこまえーっ」
……やっぱこいつは笑てる方がええ。
つられるように笑って、温かな米を頬張る。
穏やか過ぎる朝。
懐かしい匂いのする朝。
これと過ごす最後の朝、や。