【完】山崎さんちのすすむくん
吐く息すらも凍り付きそうに冷えた朝。
稽古場には道着姿の隊士達がぞろぞろと集まる。
助勤に指南を受ける者、試合形式で打ち合う者、一心不乱に素振りをする者。
今日もあちらこちらで掛け声や竹刀がぶつかる音が響きだした。
此処では俺は棒も握るが竹刀も握る。
俺の基礎たる香取流、これは正式には天真正伝香取神道流と言い、本来は林五郎の習得した棒術だけでなく剣術、居合術、柔術、更には手裏剣術、忍術などを伝承する総合武術。
勿論、俺はその全てを幼い頃から叩き込まれているのだ。
「あ、おはようございます、山崎さんっ」
手慣らしに隅で素振りをしていると横を通りかかった小さな剣士。
おぼこい容姿と小柄な体型、加えてなつっこい上辺で一見とても愛らしく見えるという中々の曲者。
……何で朝からんな殺気だってんねん。
その屈託のない笑みとは裏腹に、どす黒い空気をそこらに撒き散らかしている。
お陰で蜘蛛の子を散らすように周りの隊士達が遠ざかっていった。
「……おはようございます、藤堂助勤」
ほれ、早うあっち行ってくれ。
何で機嫌悪いんか知らんけど捲き込まれんのだけは勘弁や。
「……チッ、同じ顔見るだけで胸糞悪ぃ……あ、何でもないですっ! 今日も一日頑張りましょうねっ」
……おい、今一瞬化けの皮が剥がれかけてへんかったか?
えへ、言うても手遅れからなっ。
てか今のは何やってん?
同じ顔て。あの黒さは林五郎が原因か?
「あ! りんごくん、おはよーございまーすっ!!」
「ひぃ!? ちょっ! あれは不慮の事故やってんてぇーっ!! すんまへぇーんんっ!!」
……。
さ、稽古や稽古。