【完】山崎さんちのすすむくん
気付けば場内は熱気に包まれ、朝稽古ももう終盤。
そろそろ奴が来よる頃やな……。
「おーい山崎ぃ」
来た。
丁度打ち合いの終わった俺を待ち構えていたように名を呼ばれる。
「何か?」
流れる汗を拭いながら振り返れば、そこには頭頂から湯気を立ち上らせ此方に近付いてくる、全く以て暑苦しい原田左之助助勤の姿。
まぁ聞くまでもないんやけど。
それでも聞いてしまうのは少々面倒臭いからだ。
「分かってる癖に! やっぱ締めはこれだろこれ!」
有無を言わさず持たされる六尺(約180センチ)程の棒。
締めて。これは茶漬けとちゃうで?棒や棒。
「……今打ち合いを終えたばかりなんですが」
「まぁいいじゃねぇか、長物同士の練習も必要だろ?」
と言われれば断れない。
この人は種田流槍術免許皆伝。
故に基本槍を使うのだが、そこらの平隊士では対槍に慣れていない者が多く、大した稽古にならない。
なので棒術も使える俺がいつも相手をさせられる。
槍は棒術を組み合わせることも多く、まさに適任なのかもしれないが。
「っしゃ! いくぜぇ!」
ただでさえでかい図体しとるくせにいつでも元気一杯、本気度満点やから相手にするん疲れんねんなぁ。
「……わかりました」
俺は締めの茶漬けを食う程野暮天さんちゃうねんけど。まぁここはさっさお相手させて頂いて早うお暇(イトマ)さしてもらお。
溜め息をつき、ゆっくりと構えると近くの隊士が合図を出す。
確かにこれが朝稽古を締めくくる、朝の日課になっていた。