マネー・ドール

「……くん、慶太くん」
目の前には、スーツを着た男がいた。ああ、刑事か……逮捕されるのか……
「慶太くん、起きて」
え?
目の前にいたスーツの男は刑事じゃなくて、松永さんだった。
夢か……よかった……
「松永さん、どうしたんですか」
「どうしたって、君が呼んだんじゃないか」
「え?」
「部屋に鍵をつけたいからって、真純ちゃんから連絡あったよ?」
なんのことだ?
「空き巣に入られたんだろ? 大変だったねえ」
空き巣?
「真純ちゃんが一人になることが多いから、真純ちゃんの部屋に鍵をつけるって、君が言ったんだろう」
鍵……部屋に鍵……
「まあねえ、家の中だからって安全ってわけじゃないから」
真純の部屋から鍵屋っぽい男がやってきて、何やら松永さんと話している。
「ドアノブ変えたらいいみたいだから、手配しとくね」
「あの、真純……真純に会いましたか?」
「いいや、昨日から出張で名古屋なんだろ?」
「え、ええ、そうです」
「真純ちゃん、美人だから、気をつけてあげないとね」
「はあ……」
松永さんは鍵の工事日の打ち合わせをして、帰って行った。真純の部屋の鍵は、水曜日につくらしい。
水曜日なら森崎さんがいるな。ていうか……鍵つけるんだ、部屋に……でも、帰ってくる気はあるんだ。帰ってくるならそれでいいか。部屋に鍵なんて、珍しいことじゃないしな。
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