ごめんなさい【BL】
1
「ごめんなさい」
呟いた瞬間、彼の腕に抱き竦められた。
「ごめんなさい…」
もう一度呟くと、更にその腕が強くなる。
「どうして、そんなことを云んだ」
躰の芯に響く様な低い声が、切なくこだまする。
「貴方は、僕の敵だから」
「敵って……。そんなにオレの事、嫌い?」
僕はただ、その言葉を聞いている。
「顔も見たくない程、嫌い?」
僕が頸を縦に振らないことを知っているのに。
知っているからこそ、彼は聞いてくる。
「オレはお前を愛してる」
平気な振りをしてそんなこと云わないで。
声だけが、本当の気持ちを示しているから。
辛いんでしょ?
そのくらい、理解りますよ。
僕だって、一緒だから…。
「ごめんなさい」
僕はまた、同じ言葉を繰り返す。
「そうか」
低く低く。
呟かれた声。
「残念だよ」
ゆっくりと上がってきた腕。
両掌が、僕の頸に触れる。
力が込められるその腕に、僕はそっと左手を添えた。
fin