ごめんなさい【BL】
4
優しく抱き締めてくれる腕も。
癒される様な、心地よい低音も。
何もかもに愛が満ちていて。
それで足りないなんて、想うことすら傲慢で。
どんなに理解っていても。
どんなに満ち足りていても。
ふとした瞬間に、それは崩れ落ちる。
砂で出来た城の様に。
硝子で出来た聖母の様に。
それは脆く。
簡単に壊れていく。
皹が入れば。
あっというまに。
落としてしまえば。
あっというまに。
崩れて。
壊れてしまう。
「悩みでもあるのかい?」
「そう見えますか?」
「聞かないと話してくれないでしょ」
「――別に、悩みなんてないですよ。ただ…」
「ただ、何?」
「最近ずっと、考えていたんです」
変わらぬ笑みを湛えて。
いつもと何一つ変わらない口調で言葉を紡ぐ。
「僕のこと好きですか?」
「好きだよ」
「僕のこと、愛してますか?」
「勿論、愛してるよ」
「じゃあ、妹さんは?」
「好きだよ。勿論、家族としてね」
「この職場のみんなや、他の人たちは?」
「みんな、大切な仲間だよ。どうしたの、そんなこと聞いて。心配しなくてもボクが愛してるのは君だけだよ」
ふわりと。
優しい手が。
しなやかに。
伸びてくる。
「――嫌、なんです」
乾いた音。
行き場を無くして堕ちる、手。
苦笑。
甘い時間に流れる、冷たい空気。
つい先刻まで愛し合っていたのに。
「貴方が、他の誰かを思うのが嫌です」
僕以外の誰かをその目に視さないで。
僕以外の誰かを気に留めないで。
僕以外の誰かを愛さないで。
嫌。
嫌。
僕が壊れる。
だから僕だけを愛して。
貴方以外は何も要らない。
だから僕だけを愛して。
「ん?」
「…ごめんなさい。貴方と居ると、僕が壊れていく」
「…どうした……の?」
「――ごめんなさい」
これ以上、壊れないように。
砂で出来た城の様に。
硝子で出来た聖母の様に。
それは脆く。
簡単に崩れていく。
皹が入れば。
あっというまに。
落としてしまえば。
あっというまに。
崩れて。
壊れて。
fin