一人の女官は恋をした【短編、諸説あり】
「蓬莱を知ってる?」
蓬莱とは、この時代では天国のような場所をさす。
古代から、海の向こう側――朝日の上る所には、人々が永遠に笑って暮らせる楽園があるとされた。
その楽園は、老いも苦しみもなく、天国のような場所らしい。
楽園には山がひとつあり、その山を蓬莱山という。
蓬莱山には不老不死の薬があるとされ、それを飲めば永遠の命が手に入るとされる…
「私はね、蓬莱探しを命じられたんだよ」
「蓬莱…探し…?」
「王さまは次に生まれる子のために、不老不死の薬が欲しくなったらしい。
いや、蓬莱も我が手にしたくなったのかな。
…私が神の子だと本当に信じていて、神の子なら蓬莱に辿り着けるだろうと思っているそうだ」
「そんなっ…日子さまは王さまの御子であらされるのにっ」
体のいい厄介払い。
いらなくなった神の子である息子を島流しに等しいやり方で追放する。
それはなんとも姑息なやり方だった。
「…麗が怒る事ではないよ」
「で、でもっ…」
「私はこれでいいんだ。満足なんだよ」