一人の女官は恋をした【短編、諸説あり】
「私は、私は…ずっと昔から、日子さまのことを…んんっ!」
唇に手が当てられた。
日子の白く長い指が、縦に真っ直ぐ当てられているのだ。
まるで、塞ぐように。
「これ以上申してはならぬ、麗」
「っ、」
切なそうな目。
期待をしてしまいそうなほど辛そうな顔は、体に染みた。
「…日子さま…」
――言うことすら許されないのか。
それほど身分違いなのか。
「…お前は、つれていけない」
「なぜっ!」
塞ぎがとれたため、叫ぶ。
それすらも悲しそうに受け止められ、また胸が痛んだ。
「お前、見合いが決まってるのだろう」
「――っ」
なぜ、それを。
見合い話を麗が聞いたのは今日のことである。
日子には話してはいない。
また、女官の見合い話など方士という位の高いものが知ることはない。
ならば、なぜ。
「…日子さま……お怨み申します…」
「すまぬ、許せ…」
日子が見合い話を持ち込んだのだ。