一人の女官は恋をした【短編、諸説あり】
「…久しいな」
口を開いたのは王である。
「何ヵ月でしょうか。えっと、最後に会ったのは…」
「もうよい。皆まで話すな。最近戦が相次いでな。私も忙しかったのだよ」
「大変ですね、お体を大切になさってください」
「心にもないことを」
ため息をつく。
どうも、王はこの少年が気に入らないらしい。
それは少年も同じらしく、どこか喧嘩腰に話を進めた。
「あ、の」
扉の前に控えていた女官が、まだ地に頭をつけたまま口を開いた。
王に自ら口を聞くなど、大変無礼な振る舞いだが、この部屋にそんな無礼を叱るものはいない。
王と少年と女官のみなのだから。
「なんだ、麗(ライ)」
「だ、大王さま。何のご用があって参られたのでしょうか。
大王さまと言えど、この部屋に足を入れるのはよろしくございません。
なるべく早急にお話をなさって、帰られて下さいっ……」
「ああ。わかっている」