一人の女官は恋をした【短編、諸説あり】


◇◇◇



「麗ー!見に行かないの?すっごいらしいわよ!」



傀が簿記を読む麗の背中を叩いた。

女人にあるまじき行為だが、麗はそれを受け流す。


「…行かない」


「なんで!私は行くわよ!皆の憧れの徐福さまともう会えないかもしれないんだから」





――今日は、徐福率いる構成団の出航日である。



蓬莱探しのために旅立つのだ。



国中が騒いでいて、ここにいる傀もその一人だった。



「はーやーくー!仕事放棄しても誰も気にしないわよ、今日ぐらい」


「嫌。最後までやりたいの」


「真面目なんだから…っ!本当に行っちゃうわよ?いいの?」



「行ってらっしゃい」


「薄情ー!」



そう叫びながら、木簡を纏めてある木簡室を去っていく。


騒がしいものが消えたのを確認し、麗はため息をついた。



「…日子さま…」



今日、彼はここを発つ。


どのような思いで発つのかはわからない。


だが、わかってるのは、彼が一生涯戻ってくることないということだ。



< 30 / 34 >

この作品をシェア

pagetop