一人の女官は恋をした【短編、諸説あり】
◇◇◇
「麗ー!見に行かないの?すっごいらしいわよ!」
傀が簿記を読む麗の背中を叩いた。
女人にあるまじき行為だが、麗はそれを受け流す。
「…行かない」
「なんで!私は行くわよ!皆の憧れの徐福さまともう会えないかもしれないんだから」
――今日は、徐福率いる構成団の出航日である。
蓬莱探しのために旅立つのだ。
国中が騒いでいて、ここにいる傀もその一人だった。
「はーやーくー!仕事放棄しても誰も気にしないわよ、今日ぐらい」
「嫌。最後までやりたいの」
「真面目なんだから…っ!本当に行っちゃうわよ?いいの?」
「行ってらっしゃい」
「薄情ー!」
そう叫びながら、木簡を纏めてある木簡室を去っていく。
騒がしいものが消えたのを確認し、麗はため息をついた。
「…日子さま…」
今日、彼はここを発つ。
どのような思いで発つのかはわからない。
だが、わかってるのは、彼が一生涯戻ってくることないということだ。