一人の女官は恋をした【短編、諸説あり】
この期を逃したら、もう麗は日子に会うことはないだろう。
そんな最後の機会を彼女は頑なに拒否していた。
会いたくない、と。
「……」
麗はわかってるのだ。
最後なことぐらい。
だが、会いに行かないのには訳があった。
「…約束、だものね」
来月には、麗は結婚をして幸せになる。
そのためにはいつまでも彼を引きずっていられない。
世界一美しい失恋をぶり返してはならない。
こんな世に、あんなに愛された失恋をできるものがどれくらいいるだろうか。
そんな失恋の際に交わした約束は守りたかった。
大好きだったから、諦めるには時間がかかる。
ぶり返す訳には絶対にいかないのだ。
そうっと、昼の眩しさが際立つ窓を見上げる。
太陽が、あの月明かりのように輝いている。
「……そういえば、日子さまの日は太陽の日ね…」
じっと、目が焼けるのも構わずに、蓬莱まで続く太陽を見つめた。