一人の女官は恋をした【短編、諸説あり】
女官の麗が『王が訪問する』という話を聞いたのは、この日の昼であった。
少年の夕食の用意をしている時に、鳥から伝書を受け取ったのだ。
この部屋に来る際は必ず何かを持ってくる。
前回は、少年に戦争の吉凶を占わさせた。
大抵は占いや呪いなどのために少年を使うためなのだが、今回は違った。
『話があるから、王が参る』と。
そう書いてあったためだ。
なんの話かはわからないが、きっといい話ではない。
麗は王を早く帰したかった。
少年を利用するだけ利用する王が嫌いだったのだ。
少年をこの部屋に閉じ込めたのも王だ。
7歳の頃から、少年はずっとこの部屋に一人だ。
なんとも、酷な話である。
(…頼むから、早くお帰り下さい…)
少年に情を移してしまった女官は、そう強く願った。
そんな憎しみの対象の王は、麗に顔を向ける。
そして口を開いた。
「…今日はお前に礼を言いに来たのだ」
「…は、は?」
女官に礼。
意味のわからぬ言葉に、麗は思わず変な声をあげてしまった。
(私に用?いやそんなはずは…)