一人の女官は恋をした【短編、諸説あり】
麗は、地方の役人の娘だった。
女官といえど、宮殿に入るのにはそれなりの地位の娘でなくてはならない。
麗はそのそれなりの地位の娘なのだ。
麗だけでなく、傀も名のある名家の生まれだ。
そんな彼女が宮殿に仕えて命じられたのは、自分と年の変わらない少年の世話だった。
その前に世話をしていた女中は、老衰で他界してしまったらしい。
大王の隠された御子の世話。
秘密の中の秘密にいきなり加担させられ、最初は麗も戸惑った。
なぜこの皇子が隠されているのかわからない。
男児で、しかも不思議な神道の才能を持つ。
王には他にも子はいたが、才能・容姿・性格から言って、この御子が皇子には適任と思われた。
なのに、なぜ。
大王直々の命には逆らえず、麗は国家機密に足を踏み入れてしまった。
初めて少年と対面したときのことは、麗に強く根付く記憶である。
『麗。お前兄弟はあるのか?』
『は…?兄弟でございますか。私には、兄が二人在ります』
『兄…そうか…』
『それがどうか致しましたか?』
『…いや。なんでもない』
少年に姉がいると知ったのは、間もなくの事だった。