うちに動物が来た
「…はすくん、別に美緒に付き合わなくてもいいんだよ?」



夜、トイレに行った美緒を布団の上で待っていると、眉尻を下げたお姉ちゃんが部屋に入ってきた。
犬姿の俺の頭をぽんぽんと撫でて、布団に座る。

どうやら俺の事を気遣っている様だ。
小学校三年生と聞いたこのお姉ちゃんは、病弱な美緒を妹に持っているからこそ、随分優しいんだと思う。
ふわふわと撫でる手は、美緒よりも一回り程大きかったけど俺と同じぐらいだった。

犬姿から人間の姿になると、慣れていないのかびくりと反応した。



「付き合ってないよ、俺が美緒と一緒に居たいだけだから」

「…美緒の病気の事、聞いた?」

「うん、断片的だけど」

「いつ死んでもおかしくないんだって。小さい時よりはよくなったけど」



頭を撫でる手が止まり、泣きそうな顔のお姉ちゃん。
気丈な子ほど負の感情を背負いやすいというけどその通りかもしれないと思った。

こんな状況でさえ、俺は何も出来ない。
お姉ちゃんの頭に手を延ばし、優しく撫でた。
するとカチャっとドアの開く音。



「ねぇね…はすくんになでなでされてる!!いいなぁ!!ずるい!!」

「あんたは元気だね、美緒」

「お姉ちゃんは、一人で寝てるの?」

「ままとか美緒とかとたまに寝たりするけど、いつもは一人」

「…一緒に寝る?」

「…遠慮しとくね、美緒に怒られちゃうし」



そう言ってお姉ちゃんは部屋を出て行った。
むすっとした顔の美緒はぎゅっと抱きついてきた。

俺に嫉妬したのか、はたまたお姉ちゃんに嫉妬したのか。
分からないけど小さい声で早く寝ようと呟いた少女を、俺は抱きしめて眠りに就いた。

そっと頭を撫でてあげると、嬉しそうに擦り寄ってきた。
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