情熱のメロディ

　「あ、あの！でも、練習を重ねればもっと呼吸を合わせることもできると思います。今日は初日ですし、とてもいいスタートだと思います！」

　自分に非があるかのようなカイの表情に、アリアは思わず一歩カイへ近づいて捲くし立てた。カイは目を見開いて驚き、しかし、すぐにまた困ったように笑い始める。

　「うん……足を引っ張らないように、よく練習しておくよ」
　「足を引っ張るだなんて――」
　「いいんだ。原因は僕にある。個人的な感情を曲に乗せすぎているから……」

　カイはアリアの言葉を遮って緩く首を振る。

　「個人的な、感情……ですか？」
　「うん……」

　寂しそうな声と共に、アリアを見つめる赤みの強い瞳――いつもは強く輝いているそれ――が、揺れた気がした。

　ギュッと胸を掴まれたような苦しさに、アリアは思わず心臓に手を当ててカイを見つめ返す。ほんの数秒だったのに、とても長く感じられたその時間はアリアの心を波立たせた。

　「――ごめんね。変なことを言って……少しそれぞれ練習してからもう一度合わせてみよう」

　先に視線を外したのはカイの方で、彼はもう一度バイオリンを構えて細かなフレーズを弾き始めてしまう。アリアも自分の違和感や心の揺れが言葉にならなくて……同じように練習を再開する。

　それから何度か変調があるセクションを合わせたけれど、２人の演奏が噛み合わない。アリアの心へと積もる苦しさは増すばかりで、とうとう耐えられなくなったアリアはバイオリンをテーブルへ置いた。

　これでは何度やっても同じだ。まだ初日とはいえ、貴重な練習時間を無駄にしたくない。