情熱のメロディ
 「あの……カイ様は、この部分をどう解釈していらっしゃるのでしょうか?うまくいかないのは、技術的な問題ではないと思うんです」

 そう問いかけたアリアの口調は少し厳しい。

 苦しくて、苦しくて……こんな音楽は弾きたくない。そう言う気持ちが前面にでてしまった。床に視線を落とし黙り込んでしまったカイを見て、ハッと自分の失態に気づき、アリアは手を口に当てる。

 「ご、ごめんなさい。お気を悪くなさらないでください。その……カイ様の問題ではなくて、私とカイ様の解釈が違うなら、お互いのそれを伝え合って歩み寄ることが、一番の近道じゃないかと思ったんです」

 慌てて弁解するが、偉そうな態度をとってしまった自分が嫌で、アリアも俯く。

 「いや、アリアの言う通りだよ」

 カイは柔らかな声でそう言い、バイオリンをケースにしまうとソファに腰掛けた。

 「ほら、アリアも座って。アリアがどういう気持ちでこの部分を演奏しているのか聞かせてもらえる?」

 アリアは普段と変わらないカイの態度にホッとして、言われたと通りにカイの向かいに座る。

 「私は……“夢”はラブソングだと言われていますから、美しい旋律を意識しています。今躓いている部分は、臨時記号が多かったり、不調和だったり、恋する2人の不安な気持ちやすれ違いを表現しているのかな、と……」

 自分のパートを思い出しながら、アリアは解釈を説明していく。カイは頷きながら静かにそれを聴いてくれていた。
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