情熱のメロディ
 アリアの暮らすフラメ王国は、芸術に溢れた国で年間を通していろいろな催しごとが行われる。音楽祭もその1つで、フラメ王国だけではなく他国の音楽家が参加することを熱望するイベントだ。
 
 今年からバイオリニストとしてフラメ交響楽団に加わったアリアも、例に漏れず音楽祭の舞台に立てる日を夢見る1人だった。
 
 幼い頃からコンクールで好成績を残し、ここ数年では優勝以外の賞をとったことがないアリアを、人々は天才と呼ぶ。18歳という若さでフラメ交響楽団に推薦入団したことで、そういった認識は更に広がった。
 
 けれど、アリアはただ本能のままに弓を引くだけだ。身体の奥、自分の中心から湧き上がる衝動をバイオリンという小さく、しかし、力強い楽器に委ねる。バイオリンがアリアの想いに応え、その音にまたアリアが応える。そうして作っていく音楽は、文字通り楽しくて、ずっとずっと音の世界に浸っていたいと思うのだ。

 「アリア、おめでとう。お前のような娘を持てて、私も誇らしい。明日、フラメ城で詳しいスケジュールや練習の打ち合わせをするそうだから、今日はもう休みなさい」
 「はい……!」

 アリアは高鳴る鼓動を抱えたまま、自室へと向かった。
 
 演奏家として最も名誉な役に選ばれただけでも嬉しくてどうにかなってしまいそうなのに、憧れていた王子からの手紙に、アリアは今までになく高揚していた。
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