情熱のメロディ
「そうだね……夢みたいだった」
カイはそれからそっと目を伏せて、また寂しそうに笑った。
カイは楽しいと言った――それなのに、どうして笑顔は“楽しい”と言ってくれないのだろう。
「カ――」
アリアが口を開きかけたところで、個室のドアがノックされる。木製のドアが立てる軽い音とは対照的に、アリアの心に落ちていく不安のような、焦燥のような感情は重い。
「お待たせいたしました」
すぐに入ってきた店員は、カイとアリアの前にそれぞれケーキと紅茶を丁寧に置いてお辞儀をして出て行った。
「さ、食べて。ここのチョコレートケーキは控えめな甘さでおいしいんだ」
「……いただきます」
喋るタイミングを失ったアリアは、カイに言われるままケーキを掬って口に入れる。甘さ控えめ――カイはそう言ったけれど、アリアには少し苦くて、ブランデーの効いたチョコレートの味に少し瞳が潤む。
「ここのカフェはね、ユリア姉様のお気に入りで――」
その後もカイは家族の話をたくさんしてくれた。ヴォルフとフローラの馴れ初めや、姉であるユリアとその夫ライナーのこと……けれど、彼らの仲睦まじい様子を話すカイの瞳はどこか遠くを見るようなもので、アリアには注がれていなかった。
ドレスを選んでもらって、お茶をして……夢のようなデートは、叶わない初恋――とてもつらい現実――を突きつけられて、苦しかった。
カイはそれからそっと目を伏せて、また寂しそうに笑った。
カイは楽しいと言った――それなのに、どうして笑顔は“楽しい”と言ってくれないのだろう。
「カ――」
アリアが口を開きかけたところで、個室のドアがノックされる。木製のドアが立てる軽い音とは対照的に、アリアの心に落ちていく不安のような、焦燥のような感情は重い。
「お待たせいたしました」
すぐに入ってきた店員は、カイとアリアの前にそれぞれケーキと紅茶を丁寧に置いてお辞儀をして出て行った。
「さ、食べて。ここのチョコレートケーキは控えめな甘さでおいしいんだ」
「……いただきます」
喋るタイミングを失ったアリアは、カイに言われるままケーキを掬って口に入れる。甘さ控えめ――カイはそう言ったけれど、アリアには少し苦くて、ブランデーの効いたチョコレートの味に少し瞳が潤む。
「ここのカフェはね、ユリア姉様のお気に入りで――」
その後もカイは家族の話をたくさんしてくれた。ヴォルフとフローラの馴れ初めや、姉であるユリアとその夫ライナーのこと……けれど、彼らの仲睦まじい様子を話すカイの瞳はどこか遠くを見るようなもので、アリアには注がれていなかった。
ドレスを選んでもらって、お茶をして……夢のようなデートは、叶わない初恋――とてもつらい現実――を突きつけられて、苦しかった。