情熱のメロディ
秘密の恋
(1)
アリアは大きくため息をついて控え室のソファに腰を下ろした。膝の上に置いたバイオリンがいつもより小さく見えるのは、アリアが満足に音を響かせてあげられなかったせいだろう。
アリアはそっと表板のf字孔をなぞって、今日の演奏を反省する。
集中していなかった――一言でいえばそういうことだ。昨日のカイとのやりとりがアリアの心にしこりを残していて、音が重く、遠くへ飛んでいってくれない。
交響楽団のリハーサルは、アリア1人ではないから、皆に迷惑をかけてしまったこともアリアの気分を更に落ち込ませた。
「アリア、そんなに落ち込まないで。気にするほど大きなミスはなかったし、音楽祭の練習もしていて疲れもあるんだろう。今日は早く帰ってゆっくり休むといい」
交響楽団のコンサートマスターを務めるハンスから声を掛けられて、アリアはなんとか笑みを浮かべる。
「あ――」
「そんな甘いこと言うと、また調子に乗りますよ。この子」
そう言ってアリアを睨みつけるのは、フリーダ・アンシュッツ――アリアと同じバイオリニストだ。
「フリーダ。そんな言い方は――」
「いいんです。すみません……ご迷惑を、おかけして」
「本当よ。本業を疎かにしなくてはできないのなら、最初から引き受けるべきではないわ。貴女に合わせるこちらの身にもなってちょうだい」
「ごめんなさい……」
アリアは立ち上がってフリーダに頭を下げる。だが、フリーダはそれすらも気に食わないようで、フンと顔を背け、バイオリンを片付け始めた。
アリアはそっと表板のf字孔をなぞって、今日の演奏を反省する。
集中していなかった――一言でいえばそういうことだ。昨日のカイとのやりとりがアリアの心にしこりを残していて、音が重く、遠くへ飛んでいってくれない。
交響楽団のリハーサルは、アリア1人ではないから、皆に迷惑をかけてしまったこともアリアの気分を更に落ち込ませた。
「アリア、そんなに落ち込まないで。気にするほど大きなミスはなかったし、音楽祭の練習もしていて疲れもあるんだろう。今日は早く帰ってゆっくり休むといい」
交響楽団のコンサートマスターを務めるハンスから声を掛けられて、アリアはなんとか笑みを浮かべる。
「あ――」
「そんな甘いこと言うと、また調子に乗りますよ。この子」
そう言ってアリアを睨みつけるのは、フリーダ・アンシュッツ――アリアと同じバイオリニストだ。
「フリーダ。そんな言い方は――」
「いいんです。すみません……ご迷惑を、おかけして」
「本当よ。本業を疎かにしなくてはできないのなら、最初から引き受けるべきではないわ。貴女に合わせるこちらの身にもなってちょうだい」
「ごめんなさい……」
アリアは立ち上がってフリーダに頭を下げる。だが、フリーダはそれすらも気に食わないようで、フンと顔を背け、バイオリンを片付け始めた。