情熱のメロディ
 「同じように技術のある演奏者なんてこの国にはいくらだっているわ。貴女みたいに若さを売りに出来る人は得よね」

 そして、フリーダはバイオリンケースを持つと、ヒールを鳴らしてドアへと歩いていく。

 「話題作りに選ばれたバイオリニストなんて」

 フリーダはそこで振り返った。開いたドアから吹き込んできた空気に彼女の長い金髪がなびく。

 「――名誉どころか末代までの恥だわ」

 パタンと閉まったドアの音は、アリアの心も叩くようで痛い。更に控え室にいた他の楽団員からの2人のやりとりを見ていた視線に居たたまれなくなる。

 「アリア、気にすることないよ」
 「でも……」

 フリーダが怒るのは当然だ。アリアが音楽祭の準備のせいで交響楽団の演奏ができなくなるというのなら、本業を疎かにしていると思われても仕方がないし、実際そうなのだ。

 そして、演奏の歯車をずらしただけでなく、フリーダを怒らせてしまったことで部屋の空気を悪くしてしまった。原因はアリアにある。

 「あんな敵意むき出しで、バイオリンセクションの士気を落としているのはフリーダの方だよな」
 「フリーダも自分がアリアに勝てなくなったからって八つ当たりよね」
 「本当よね。若さに嫉妬してるのはあの子の方よ」

 メンバーの1人が口を開くと、次々とそんな言葉が聴こえてきてアリアの心はどんどん重くなっていく。
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