情熱のメロディ
 フリーダとは、年は離れているが、コンクールでは切磋琢磨していた。彼女の演奏も評価はとても高く、コンクールでは負けなしと言われるほどだった。数年前までは……

 「国際コンクールの最年少優勝記録をアリアに持っていかれたからだろ?」
 「そうそう。売りにしていた若さを更に若いアリアに奪われたとでも思っているんでしょう」
 
 アリアが16歳で国際コンクール優勝を果たしてからは、フリーダがアリアの上を行くことがなくなり、いつからかアリアにきつく当たるようになった。

 実際にまだ18歳であるのだから仕方のないことではあるが、アリアが話題にとりあげられるときはいつも“若さ”を強調される。最年少優勝記録保持者、若き天才バイオリニスト、18歳にしてフラメ交響楽団入りを果たしたバイオリニスト、そして……音楽祭のゲストとしても最年少での出演になる。

 「皆さん……!すみませんでした。今日の練習に身が入っていなかったのは事実で、フリーダさんが怒るのも当然です。皆さんにも、ご迷惑をおかけしましたし、セクションの雰囲気も悪くしてしまって……本当に申し訳ありませんでした」

 アリアはそう言うと、急いでバイオリンをケースに片付けてもう一度頭を下げて控え室を飛び出した。

 何をしているのだろう。

 アリアはバイオリニストだ。ただ本能のままに弓を引けばいいだけなのに。何も考えずに、自分のすべてをバイオリンに委ねるだけなのに。

 カイとの演奏に浮かれたり、カイの音に苦しくなったり、カイの笑顔にドキドキしたり、カイの話に落ち込んだり……

 全部、カイのことばかり。

 初恋は、もっと淡くてキラキラして……楽しい夢だと思っていたのに。こんなに不安定な気持ちは初めてだ――…
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