情熱のメロディ
 ――演奏が終わると、カイはフッと息を吐いてバイオリンをテーブルへ置く。

 アリアも同じようにバイオリンを置き、額に滲んだ汗を拭った。音が安定せず、思ったように響かない。ここ数日、アリアが抱えている大きな問題と言える。

 「アリア。もしかして……体調でも悪い?」

 カイが心配そうにアリアの顔を覗き込む。

 「いえ。そういうことでは――っ」

 言いかけて、カイがアリアの額に手を当ててきて言葉に詰まった。カイは自分の額にも手を当てて、アリアとの体温の差を調べているようだ。

 「熱はないみたいだけど……疲れが出ているのかもしれないね。ほら、座って」

 促されるままにソファへと腰を下ろし、アリアはふぅっと息を吐いて心を落ち着かせようと努めた。

 「僕がなかなかうまく君の演奏に合わせられないから……精神的な負担も掛けてしまっていると思う。ごめんね……僕の力不足だ」
 「っ、違います!最近、楽団の練習がうまく行かなくて……今日も、引きずってしまっていて……ごめんなさい」

 アリアは膝の上でキュッと手を握った。だが、次の瞬間、その強く握り締めて白くなった手にふわりとカイの大きな手が被さってくる。

 「手……強く握ったらダメだよ。君の音を奏でる大切な手なんだから」

 指を柔らかく撫でられて、アリアは視線を上げるのと同時に少し力を抜く。すると、カイの指がするりとアリアのそれに絡まって、ゆっくりと握られた。
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