情熱のメロディ
 カイは5人の王子王女の中で、元宮廷ピアニストである王妃の才能を一番色濃く受け継ぐといわれ、ピアノはもちろんバイオリンやその他の弦楽器、木管・金管楽器も幅広く嗜むフラメ王国の第一王子だ。外見は国王に似ていて、赤みの強い髪と瞳の色、長身で引き締まった身体は男性としての魅力にも溢れて……アリアの憧れの人である。
 
 シャワーを浴びても、ベッドに入っても、興奮が冷めることはなく……アリアは閉じた瞼の裏で明日会えるだろう王子の姿を思い浮かべる。

 ――『アリア。君は本当に音楽が好きなんだね。音に君の炎が灯って……とても心を揺さぶられる』

 数年前、まだアリアが音楽学校に通っていた頃、視察に来たカイはそう言ってアリアの演奏を褒めた。アリアの演奏技術については一言も触れず、ただアリアの中にある“音楽への愛”を感じ取って微笑んでくれたカイに……アリアは恋をしている。
 
 叶わなくてもいいと思っている。いや、それは叶うはずがない恋――いくらアリアが上流階級の家の娘でも、王族との恋、まして婚約や結婚など夢のまた夢の話だ。
 
 アリアはまだ18歳だ。最近はいくつか縁談が舞い込むようになってきたようだけれど、正式な婚約者はいない。淡い初恋に胸をときめかせるくらいは許されるだろう。
 
 与えられたチャンス――音楽祭で演奏家として更に大きなステップアップを、そして、恋する1人の女性としてもこのイベントを憧れの人とのキラキラした思い出にしたい。
 
 そのためにアリアに出来ることは、人生で最も印象的な出来事として刻まれるだろう今年の音楽祭に、全力で臨むということだ。

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