情熱のメロディ
　アリアの思う夢は……恋する旋律と、愛するが故のジレンマやすれ違い、そしてハッピーエンド。アリアの理想がすべて詰まった音楽がそこにある。それが、アリアの解釈で、アリアの音楽だ。

　演奏が終わると、アリアはゆっくりと構えを解いてフローラを見据えた。

　「とても素敵な夢ね」

　フローラは優しい笑顔を向けてくれた。その雰囲気は、カイにとてもよく似ている。

　「でも……っ、でも、カイ様の演奏は違うんです！フローラ様の、先ほどの演奏も……お２人は何を感じているんですか？」
　「カイは、貴女に言っていない？」
　「い、いえ……」

　そこで、ようやくアリアは気づく。カイは、アリアの解釈を聞いたことはあったけれど、自分のそれをアリアに教えてくれたことはなかった。

　「カイ様の音は、とても苦しくて、つらいんです。私の解釈が、どうしたら正しくなるのかをずっと考えているのに、ただ苦しいということしかわからなくて……私の知らない夢は、どんな夢ですか？」

　アリアがそう言うと、フローラは少し驚いて……それから寂しそうに笑う。その笑顔も……カイと同じ。
　
　「間違っている音楽というものはないの。感情は人ぞれぞれだから、受け取り方も表現の仕方も自由……それが、音楽だと私は思う」

　そう言って、フローラはゆっくりと立ち上がり、本棚から小さな古いノートを取り出してアリアのもとへ近づいてきた。
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