情熱のメロディ
 婚約者との仲が悪いわけではなく、結婚にも納得している。けれど、ミュラーの本能が愛しているのは彼女だということ。“彼女”としか書かれていないピアニストとは、両想いらしいということ。お互いにそれを知っていて、何も言わずにいること……

 別れは結婚式――彼女はミュラーと妃への祝福を音楽で示した。

 『――――彼女と会うのは今日で最後だろう。だから……この曲を書く。思い出、幻――…夢……』

 タイトルを悩んだのだろう。いくつか単語やフレーズが並んでいた。そして“夢”という言葉を最後に、彼女の話題には触れなくなった。そこから読み取れる感情は、とても苦しくて、痛い。

 ミュラーの夢は、アリアが想像していたような甘い恋物語ではなく、カイやフローラの演奏そのもの――苦しくて美しい、そして儚く散った夢だった。

 この日記は秘密の恋を綴った記録だ。ミュラーと王妃の仲が良かったのは本当なのだろう。けれど、それは本物の男女の愛ではなかったのかもしれない。家族愛のような、穏やかな愛。それは、1つの愛の形であれど……ミュラーの本能(あい)は、“彼女”にあった。そしてそれを、1つの曲に詰め込んだ。

 言葉で言えない代わりに――…
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