情熱のメロディ
　「フリーダさん……」

　フリーダの他にも楽団のメンバーが２人いる。皆、一様に強張った顔でアリアを睨みつけていて、フリーダは大股でアリアに近づき、アリアの頬を叩く。
　パン、という乾いた音……そして、フリーダが堰を切ったように怒鳴り始めた。

　「自信がないですって？」

　アリアとハンスの話を聞いていたらしいフリーダは顔を歪めてもう一度アリアの頬を叩いて、アリアはその衝撃に床へと崩れ落ちた。バイオリンも一緒に床へと落ち、アリアは手を伸ばしたけれど、フリーダがそれを遮ってアリアの胸倉を掴む。

　「音楽祭に出たい実力のある演奏者はいくらでもいるのよ！貴女みたいな人に演奏されたら、カイ様にもフラメ王国のプライドにも傷がつくわ。うまく表現できないだなんて、そんな甘えたことを言っているような人間には音楽祭に出る資格なんてない！」

　２回も頬を叩かれ、寝不足も加わって、アリアはくらくらとする頭を押さえてなんとかフリーダを見上げた。だが、すぐに視界が揺れる。

　フリーダとともにアリアを待ち伏せていた２人のうち男性の方が、アリアを担いだのだ。アリアのバイオリンを拾ったのは女性の方だ。

　「な、何をするつもりですか？」

　アリアはうまく働かない頭で状況を整理しながらフリーダに問う。すると、フリーダは顎で取り巻き２人に指示を出し、アリアは男性に担がれて廊下の奥へと運ばれていく。

　「貴女には無理よ。私が音楽祭に出るわ」

　フリーダはアリアに向かってそう言い、控え室を出るとアリアを担いだ男とは反対方向へと去っていく。
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