情熱のメロディ
「ま、待ってください!私――きゃっ」
廊下の突き当たり、倉庫に放り投げられて、アリアは激痛が走る手首を押さえた。床に手をついたときに捻ったようだ。
それからすぐにアリアのバイオリンが彼女に向かって投げられ、アリアは咄嗟にそれを受け止めたけれど、更に手を捻って痛みに顔を顰める。
「カイ様との練習もサボっているらしいじゃない?」
アリアのバイオリンを投げた女性がクスクス笑う。男性は黙ったままアリアを見下ろしているだけだ。
「フリーダの方が技術も表現力も上なのに、若いだけで注目されているのもわからずに調子に乗るからこんなことになるのよ」
鼻で笑った女性が倉庫を出ると、男性もそれに続き、扉が閉まって真っ暗になった。
「待って!出してください!」
アリアは慌てて扉に縋ったけれど、鍵がかかる音がして女性の笑い声も遠くなっていく。ズキズキと痛む手首と先ほど壁にぶつけた頭がくらくらするのとで、アリアはそのまま床に座り込んだ。
確かに自分は未熟だと思う。
心の変化についていけなくて、演奏ができなくなってしまう。自分のコントロールができない証拠だ。せっかくカイが推薦してくれたのに、期待に応えられない自分がもどかしくて仕方ない。
だからと言って、こんな形でカイの信用を失うのは嫌だった。
カイはアリアを認めてくれていた。それに出来る限り応えたいと思っているのは、本当なのだ。カイへの想いは伝えられなくても、音楽への誠意だけは、きちんと自分でカイに伝えたかったのに――…
倉庫の中は暗く、床も壁も冷たくて、アリアは膝を抱えて震えた。
「カイ様……ごめんなさい」
そう、呟いたアリアの言葉を聴く者は誰もいない。
廊下の突き当たり、倉庫に放り投げられて、アリアは激痛が走る手首を押さえた。床に手をついたときに捻ったようだ。
それからすぐにアリアのバイオリンが彼女に向かって投げられ、アリアは咄嗟にそれを受け止めたけれど、更に手を捻って痛みに顔を顰める。
「カイ様との練習もサボっているらしいじゃない?」
アリアのバイオリンを投げた女性がクスクス笑う。男性は黙ったままアリアを見下ろしているだけだ。
「フリーダの方が技術も表現力も上なのに、若いだけで注目されているのもわからずに調子に乗るからこんなことになるのよ」
鼻で笑った女性が倉庫を出ると、男性もそれに続き、扉が閉まって真っ暗になった。
「待って!出してください!」
アリアは慌てて扉に縋ったけれど、鍵がかかる音がして女性の笑い声も遠くなっていく。ズキズキと痛む手首と先ほど壁にぶつけた頭がくらくらするのとで、アリアはそのまま床に座り込んだ。
確かに自分は未熟だと思う。
心の変化についていけなくて、演奏ができなくなってしまう。自分のコントロールができない証拠だ。せっかくカイが推薦してくれたのに、期待に応えられない自分がもどかしくて仕方ない。
だからと言って、こんな形でカイの信用を失うのは嫌だった。
カイはアリアを認めてくれていた。それに出来る限り応えたいと思っているのは、本当なのだ。カイへの想いは伝えられなくても、音楽への誠意だけは、きちんと自分でカイに伝えたかったのに――…
倉庫の中は暗く、床も壁も冷たくて、アリアは膝を抱えて震えた。
「カイ様……ごめんなさい」
そう、呟いたアリアの言葉を聴く者は誰もいない。