情熱のメロディ
 「いえ、あの……この度は、フラメ王国の名誉ある音楽祭のゲストとしてお招きいただき、とても光栄に思います。精一杯務めさせていただきますので、どうぞよろしくお願いいたします」

 アリアがそう言うと、カイは少し眉を下げて困ったように笑った。

 「……うん。君の曇りない音が聴けるのを、今から楽しみにしている」

 しかし、それはほんの短い間で、カイはまた柔らかく微笑み、音楽祭の資料を机の上に置いてアリアへと差し出した。
 
 アリアはそれを受け取ってカイと同じように表紙をめくる。

 「練習と音楽祭当日のスケジュールはこの通りだよ。音楽祭の練習は楽団の方とは時間が重ならないように調整したつもりだけれど、変更もあるかもしれない。音楽祭まではできるだけこちらの予定を優先して欲しい。楽団長やコンダクターにも話は通してあるから心配しないで」
 「はい」

 カイの話を聞きながらスケジュール表に目を通していくと、“バイオリンデュオ”という項目があることに気づき、アリアはふと顔を上げた。アリアを見ていたらしいカイと目が合い、また鼓動が早くなる。
 
 首を傾げたカイは、アリアの言葉を待っているようだ。

 「あの……バイオリンデュオのパートナーの方は今日いらっしゃらないのでしょうか?」

 デュオということは、バイオリニストがもう1人必要だということだ。だが、客室に案内されたのはアリアだけで、カイも誰かを待っている様子はない。

 「いるよ。君の目の前に」

 先ほどまでとは違い、少しいたずらっぽく笑ったカイの表情は“王子”として皆の前に立つときとは違って少し幼くアリアの瞳に映った。
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