情熱のメロディ
 「君が選ばれなかったのは、決して君がアリアに劣るからではないよ。強いて言えば、議会とフラメ王国の利益、それと僕のわがままのせいだ。つらい思いをさせたのなら、謝る。ごめんね」
 
 フリーダは強張っていた身体の力を抜いた。それがわかったのか、カイはゆっくりと立ち上がった。

 「君はアリアにできない演奏ができる。アリアは君にできない演奏ができる。それでいいんだよ。コンクールという場はあるけれど、それはお互いに切磋琢磨して国全体の音楽レベルをあげるためだと僕は理解している。音楽は本来競い合うものじゃない」

 カイはきっと、フリーダがここに来た意味をわかっている。それでも、フリーダを責めることなく話を聞き、意見を述べてくれた。

 これ以上は……更に自分の醜い部分を晒してしまうだけだ。

 「アリアはどこにいるの?」
 「コンサートホールに……倉庫に、閉じ込められて、いて……」
 「そう。ありがとう」

 カイは最後まで笑顔だった。

 項垂れるフリーダの肩をそっと叩いてから客室を後にしていく。

 自分に足りないものはわかっていたつもりだった。それは、コンクールで優勝していたときからずっと知っていたこと――それができるアリアが羨ましくて、怖かった。

 結果として目の前に突きつけられた事実を受け止められていないフリーダは、まだまだ人として未熟な証拠だろう。

 カイはきちんとフリーダを見ていた。フリーダの個性を理解し、フリーダの長所を褒めてくれた。それなのに、誰も自分を見てくれていないのだと卑屈になって、惨めな思いを自ら大きくして……フリーダはしばらくソファに座って、自分勝手な涙を拭い続けた。

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