情熱のメロディ
 「僕は、お父様みたいにはなれない――…」

 消え入りそうな声は確かにアリアに届いた。

 ヴォルフみたいには――それがどういう意味なのか、アリアの心の天秤は期待と落胆で揺れ動く。

 カイの苦しい音に隠された“夢”は……アリアと同じだろうか。それが叶わないことを知っている2人は、このままミュラーの想いを弾くことで別れを告げるのだろうか。

 カイがアリアから離れていく。カイの温もりが遠くなるときはいつもひどく寂しく、空虚な気持ちがアリアを支配する。

 「本当に……僕は中途半端だ」

 カイは自嘲して、もう一度アリアの涙を拭ってくれた。
 
 「無神経なこと……言ったよね。ごめん。僕が口を挟む問題ではないのに…………今日は、帰るね。また明日……お城で」

 弱々しく微笑んだカイは、そのまま軽く手を上げてアリアの部屋を出て行った。

 1人部屋に残されたアリアは、カイの温もりをかき集めるかのように自分の身体を抱きしめる。あのまま触れて欲しかった。攫って欲しかった。

 いや……アリアはカイを離すべきではなかったのかもしれない。アリアに寄りかかってきたカイを、抱きしめて「好き」だと伝えれば良かったのだろうか。

 そうしたら、アリアとカイは夢を現実にできたのだろうか――…

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