情熱のメロディ
(2)
アリアとカイの練習は、再開してから今までになくスムーズに進んだ。最初から問題点は表現の擦り合わせだけだったのだから、それは当然とも言える。
淡い恋心がだんだんと加速し、伝えられない想いに苦しむミュラーの気持ち――それだけを考えて演奏すればいい。
しかし、それでもまだボタンをひとつ掛け違えてしまったようなズレに、アリアはまた悩んでいた。ボタンひとつ――ほんの少しなのにチグハグな音、それはアリアが隠す想いとそれに気づいているカイのせいであり、カイの隠す想いとそれに期待するアリアのせい。
今まで自分自身の演奏を考えることで精一杯だったアリアは、秘密の恋を貫く決意をしたことで余裕ができたらしい。
カイの演奏の苦しさと、夢に込められたミュラーの恋物語だけではない悲しさに気づく。
「カイ様……」
「大分良くなったよね。初めからミュラーの日記を君に見せれば、君がつらい思いをすることはなかったのに……でも、この調子で音楽祭は――」
「っ、カイ様!」
アリアと視線を合わせてくれないカイ。アリアの問いかけに答えようとしないカイに、アリアは少し大きな声を出す。
「カイ様の隠していることは何ですか?カイ様は、以前私に何を隠しているのか聞きました。カイ様も……隠していることがあるのでしょう?」
違う。これは問いかけなどではない。
淡い恋心がだんだんと加速し、伝えられない想いに苦しむミュラーの気持ち――それだけを考えて演奏すればいい。
しかし、それでもまだボタンをひとつ掛け違えてしまったようなズレに、アリアはまた悩んでいた。ボタンひとつ――ほんの少しなのにチグハグな音、それはアリアが隠す想いとそれに気づいているカイのせいであり、カイの隠す想いとそれに期待するアリアのせい。
今まで自分自身の演奏を考えることで精一杯だったアリアは、秘密の恋を貫く決意をしたことで余裕ができたらしい。
カイの演奏の苦しさと、夢に込められたミュラーの恋物語だけではない悲しさに気づく。
「カイ様……」
「大分良くなったよね。初めからミュラーの日記を君に見せれば、君がつらい思いをすることはなかったのに……でも、この調子で音楽祭は――」
「っ、カイ様!」
アリアと視線を合わせてくれないカイ。アリアの問いかけに答えようとしないカイに、アリアは少し大きな声を出す。
「カイ様の隠していることは何ですか?カイ様は、以前私に何を隠しているのか聞きました。カイ様も……隠していることがあるのでしょう?」
違う。これは問いかけなどではない。